月に一度は溺れたい

不真面目に真面目なブログです。感情豊かにセックスしたい。

「寒くない?」

何を話していたら、こんなにも時は瞬く間に過ぎるのだろう。
微笑みかけられると、冷たい風に冷えた身体も温まってくる気がした。


新天地に住み始めて、9ヶ月が経とうとしている。
観光地でありながら、多忙に負けて全く観光ができていなかった。


ある日、2人で食事をした。
お互いにお酒が好きなのだけれど、その日は彼が運転をしてくれたのでお言葉に甘えて私だけ飲酒をした。
お開きになった頃、時刻は22時。
私の家の近くまで車が来たが、曲がるところを間違えて通り過ぎた。


「あちゃー、ごめんなさい」
自宅に向かって引き返そうとする彼に向かって、
このまま、もう少しだけ車を走らせて貰えませんか?
勇気を出してそう言った。
「いいですね、どこ行きますか?」
車に加速がついて、海沿いへと向かう。


たどり着いたのは、とある観光スポット。
ライトアップが有名であるものの、既に終了時刻を過ぎていて辺りは真っ暗だった。
ご飯を食べながらした、観光をしていないという話を覚えていてくれたらしい。


冷たい風が身体の芯まで届くような日だった。
「寒くない?」
20cmほど低い私の目線に合わせて、彼が顔を覗き込む。
驚いて、緊張して、目を見開いたまま頷くことしか出来なかった。
「なら、良かった」
そんな様子の私に優しく微笑みかけて、再び並んで歩き始める。


ご飯の時間を含めれば、3時間半ほどのデートになった。
次の日の夜も、2人で出かけた。
ちゃんとライトアップされている所を見るためだ。


2人だけの夜は、楽しかった。
並んで歩いている間に肘どうしが触れ合うこともあった。
ベンチに腰かけて昔話をした。
足元の悪い中、泥を跳ねさせて笑った。
「昼だったら、『次、どこ行きます?』ってなるのにね」
次があっても、いいの?
「……いいんじゃない?」
いつの間にか敬語じゃなくなっていることも、どこか嬉しかった。


本気にしてしまっても、いいんでしょうか。