月に一度は溺れたい

不真面目に真面目なブログです。感情豊かにセックスしたい。

「それは○○だね!」

気の許せる同僚に、これまでの経緯を打ち明けた。
彼のことは、同僚以上には思えないし思われてもいない、という彼女たちの言葉を信用したので、アルコールで口を滑らかにしてから、話した。

それはクソだね!

同い年の彼女が、二言目にはそんなことを言う。
あまり、汚い言葉を使わないでと私は苦笑いした。

ごめんごめん、でも、何様なの?
こっちは頑張って自分の気持ちを伝えたのに!
それってただのキープじゃない?

お付き合いを断っておきながら、手を繋いだりキスに応じたりした様子に、憤慨しているようだった。
誰かの恋愛にこうやって怒れる人を、優しいなと思う。


先輩の女性の同僚は、次のように言った。

なんだか偉そうというか、そういう感じを受けるのはわかる。
好かれてるからって調子に乗ってる!
言ってることとか、村上春樹の小説に出てくる主人公みたいだね。

最後の一言には、私も笑ってしまった。
確かに、そうだ。
女に愛されていながら、何かつまらなさを感じている主人公が、なんだか彼には似合う気がする。


「触れてもらえたことが、嬉しいんです。
幸せな気分になって、もうこれでいいかなって、思ってしまう……」
私がこう言うと、一同はため息をつく。
それはダメなやつだ、という視線を食らう。
それに、彼女たちは知らない。
キスをしたあとの彼のひんやりとした目付きに、私の血が騒いだことを。
キスをした後も髪に絡まる、彼の優しい指先を。
それを言うつもりもなく、ただ彼女達の憤りを笑いながら聞いていた。
どこか照れくさい気持ちでさえあった。


年度末で忙しくなり、彼と話す時間は少し減った。
それでも、同じ部屋で働けているだけ幸せを感じる。
新品のタオルを開けた時、彼と同じ匂いがすると思った。
クリーニングに掛けられた枕カバーで寝転がったときも、同じ匂いを感じた。
彼の匂いはあくまで清潔で、汚れた私には不釣り合いだと感じる時さえある。
彼を汚してしまうようで、この気持ちは「好き」ではなくて「憧れ」なのではないかと思うこともある。


「それに、いいんです。目的は達成出来たから」

ガードが硬いなら、既成事実作っちゃえ!
チューすれば、意識してくれるよ。

そういえばこんな風に私を焚き付けたのも、彼女たちだったなぁと思い出すと懐かしい。
この言葉のおかげで、私は1歩踏み出せた。
軽い言葉だけれど、時間もないし口下手な私が勇気を持てるとしたらこれだ、と本気で思った。
そして実行できた。
自分側が翻弄される立場になるとまでは、思わなかったけれど。


元々頭のキレる人だとは思っていたけれど、最近殊にその頭角を現してきた。
バリバリと仕事をこなす彼を、もう1年見ていたかった。
少し疲れているなと思った時に、声をかけられる距離にいたかった。
彼と来年も働ける同僚たちを見ると、心が狭くなる。
でも、自分が選んだことなのでそれを嘆いても仕方がない。
気持ちも伝えたし、出来ることはした。


「また、会いに行ってもいいですか?
誰かに取られたくないです。物じゃないけど……」

ふふ、欲が出てきましたね?

そう、欲です。
私は欲にまみれた人間です。
だからこそ、謙虚で居なければと思っています。
周りは色々言うけれど、好きでいることを許してもらえて、感謝しています。
我儘な手や唇に応えてもらえて、幸せです。
心まで応えてもらえなくても、それだけで、
好きになったのがあなたで良かったと、私はそう、思います。