10歳年上男性(A)の話。
脳イキという言葉があるらしい。
身体への刺激なしに、快感の絶頂を得ることを指す…と理解している。
経験は未だない。
ゆっくりと、身体の内側に語りかけるように話すのが特徴的な人だった。
彼と初めて話した時、催眠術を掛けようとしてるんじゃないかと警戒した。
警戒されていることを察した相手に正直に話すと、普段は動じない声が、弾けたように笑った。
それがなんだか、印象的だった。
筆者の話の細かいところまで聞いて、しっかり消化された反応を返してくれる人だった。
彼とは、言葉の定義についてよく話した。
元々筆者の方が言葉遊びが好きで、彼はそれに付き合ってくれた。
時々彼の方から言葉について議論を求めてくれた時は、身体の快感よりも嬉しかった。
だから、既婚だというのも納得できた。
アダルトな話になると、繰り返すように「おいで?」と語りかけられた。
正直、筆者はそれが苦手だった。
新幹線で片道2時間かかるようなところに住んでいる人においでと言われたって、どう反応すればいいのか分からなかったからだ。
「深く考えないで、気持ちいい事に集中してって意味だよ」
彼はそう言って、いつものように優しく笑った。