最初で最後(その11)
今になって急に、寂しいと感じます
抱きしめられているので顔は見えなかったが、彼は鼻を啜っていた。
もう1年あればって、思います。○○さんのことをもっと知れたかもしれないし、私のことも知って貰えたと思います
私は、○○さんの思っているような人間じゃないですよ?
○○さんは私のことを「余裕がある」と仰いますが、いつもいっぱいいっぱいなんです。
○○さんは私のことを「かっこいい」と仰いますが、私はもっと、自分がかっこ悪い所を見て欲しかった。
カッコつけてるだけなんです。かっこよく見えるように、振舞ってるだけなんです
「でも……私にはかっこよく見えますよ?」
彼が話せば話すほど、私の中には愛しさしか募らない。
「○○さんは来年から重要な役目をたくさん担って、忙しくなると思います。それを近くで見て、疲れてそうだなって時に『お疲れ様』と言える距離に居たかったです。それだけが心残りです」
どうして貴方は……
彼が、言葉を詰まらせた。
どうしてあなたはそうやっていつも、自分のことより他人の心配をするんですか
聞いた事のないほどに悲しい声だった。
理解できない、というニュアンスも読み取れた。
私は身勝手な人間です。
○○さんは私をずっと見てくださったけれど、私が○○さんとちゃんと向き合ったのはほんの最近のことです。
離れ離れになったあと、忙しくなったら、私は○○さんのことを忘れてしまうかもしれない
そんなことを言いながら、どうしてそんなに優しく頭を撫でるの?とも思っていた。